ボトックス効きすぎ パルス鍼が神経に作用するメカニズム
「どうして電気鍼(パルス鍼)でボトックスの効果を早くなくすことができるのですか?」という質問を頂くので説明させていただきます。
ボトックス(ボツリヌストキシン)治療とは
ボトックス(ボツリヌストキシン)は筋肉の神経に作用するお薬です。
筋肉に注射することで、神経の機能をさえぎり、その筋肉が収縮することを弱めます。
これにより、シワをできにくくしたり、エラや肩など筋肉のボリュームを減らして、形を整える効果が期待できます。
効果の持続期間はおおよそ3か月から6か月と言われています。
ボツリヌストキシンが作用した神経は徐々に再生され、それとともにその効果は弱まってきます。
ボトックス(ボツリヌストキシン)効きすぎとは
目的とする筋肉以外に薬液が拡散することで、お顔の表情が作れない、動きに支障をきたすなどの支障が出ることがあります。
口角ボトックスや人中ボトックスなど口周りのボトックスは、口を動かす筋肉が複雑に関与しているので、食事や会話に支障が出ることがあります。
また、額や眉間のボトックス注射では、額がゆるみ過ぎて眉が下がりまぶたが重くなることで、目の印象が変わったり、頭痛や耳なり、肩こりなど健康被害が出ることもあります。
予期しない症状が出た場合、基本的にはボトックスの効果が自然に切れるのを待つしかないとクリニックでは説明されます。
オビソートとボトックス
オビソートとは、アセチルコリン塩化物という成分を含む注射剤で、筋肉の動きを活発にする働きがあり、筋肉の収縮を促します。これにより、ボトックスで抑えられた筋肉の動きの回復が期待されます。
ボトックスと同様、効果の出方には個人差があり、効果の持続期間も3日ほどなので、ボトックスが効きすぎている期間、複数回打つ必要があります。
なぜ電気鍼(パルス鍼)でボトックスの効果を早くなくすことができるのか?
ボトックスが効きすぎている状態というのは、神経伝達物質(アセチルコリン)阻害のため神経筋シナプス機能低下になります。その機能を戻す必要があるため、それに適した電気で刺激を入れます。
神経筋シナプスとは
私たちが筋力を動かすためには、脳からの刺激が神経を通じて筋肉に伝達される必要があります。筋肉の動きを指令するために刺激を伝える神経を総称して運動神経といいます。この運動神経と筋肉のつなぎ目となる部分が神経筋シナプスであり、プレシナプス、シナプス間隙およびポストシナプスの3つの領域で構成されています。
プレシナプスである運動神経の末端部分 (神経終末) には多数のシナプス小胞が含まれており、各々のシナプス小胞にはアセチルコリン が刺激の伝達物質として貯蔵されています。
脳からの刺激が電気的な興奮 (活動電位) として神経終末に到達すると、シナプス小胞とプレシナプス膜の融合が起こり、シナプス小胞に貯蔵されているアセチルコリンがシナプス間隙に大量に放出されます。放出されたAChがポストシナプスの筋細胞膜上に存在する受容体 (AChR) に結合すると、ナトリウムイオンがAChRを通って細胞内に流入し、終板電位と呼ばれる電気的な変化が筋細胞膜に生じます。この変化量がある一定の大きさを超えると、活動電位が発生して筋肉が収縮します。
神経筋接合部におけるA型ボツリヌス毒素の作用機序
末梢の神経筋接合部における神経終末内でのアセチルコリン放出抑制により神経筋伝達を阻害し、筋弛緩作用を示す。神経筋伝達を阻害された神経は、軸索側部からの神経枝の新生により数ヵ月後には再開通し、筋弛緩作用は消退する。
また、エクリン汗腺は主にコリン作動性神経により調節されていることから、本薬はコリン作動性神経および汗腺の接合部において、神経終末内でのアセチルコリン放出抑制により神経伝達を阻害し、発汗を抑制すると考えられる。
神経と筋・汗腺の接合部におけるA型ボツリヌス毒素の作用部位
(1) コリン作動性神経終末への結合
筋肉や皮内に注射されたA型ボツリヌス毒素は、神経終末の受容体に結合します。毒素の受容体認識部位は重鎖にあります。
(2)神経終末内部への取り込み
受容体に結合したA型ボツリヌス毒素は、細胞膜の陥入によって内部へ取り込まれます。
(3) 細胞質内への放出
取り込まれたA型ボツリヌス毒素はエンドソーム内にあります。
毒素の軽鎖がエンドソームから細胞質内へ放出されます。
(4) アセチルコリン放出を阻害
軽鎖は酵素として働き、神経伝達物質であるアセチルコリンの放出に関与するSNAP-25という蛋白を切断することで、アセチルコリンの放出を阻害します。これによって、神経伝達が遮断されます。
神経再生作用(海外資料[1])
A型ボツリヌス毒素により筋肉や汗腺への情報伝達を阻害された神経です。
時間経過とともに、神経発芽によって側副枝を作り、新たな接合部を形成します。
さらに時間が経過すると、毒素の作用を受けた神経終末の機能が回復し、側副枝は退縮します。
神経終末からの情報伝達は数ヵ月後には再開通し、筋弛緩作用および発汗抑制作用が消退します。
[1]De Paiva A, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 1999;96:3200-3205
出典:ボトックス 作用機序|医療関係者向け情報 GSKpro
ボトックスの効果が3~6ヵ月、薬剤の効果が切れると元に戻るのはこのためです。
筋肉というのは神経からの電気信号を受けて収縮しているので、その仕組みを使い、脳からの指令がない状態でも電気鍼で筋肉を動かすことができます。
当院ではボトックスが効きすぎている、つまり機能低下している神経筋シナプスに軸索成長(神経発芽)を促す周波数の電気刺激を入れることで、神経が側副枝を作ります。つまり新たな接合部を形成するスピードが速まります。その結果、ただ時間が経過するのを待つだけよりも確実に早く表情筋の動きが戻ってきます。
パルス鍼治療は、オビソートにように更に薬剤を入れることがないので、副作用もなく安全です。自身の自然治癒力を賦活する治療となり、ボトックス修正の他に、肩こりや頭痛の改善、肌質の改善、お顔のリフトアップといった副次的な嬉しい効果も期待できます。
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